(08)下北沢駅周辺地区にはなぜタワマンがないのか 高さ制限60mの事実
前回(07)では、この再開発を主導する三井不動産レジデンシャルが、過去に武蔵小山パルム駅前地区でよく似た規模・容積率・高さの再開発を手がけていたことを見ました。
今回は少し視点を変えて、同じ世田谷区内の別の駅前再開発地区「下北沢」と比較しながら、なぜ千歳烏山駅前だけこれほど大きな建物を建てられるようになったのか、その制度上の理由を確認します。
まず結論から言うと──下北沢駅周辺地区では今も、敷地の条件に応じて16mから60mまで段階的に分かれた高さの上限が定められています。
一方、千歳烏山駅前南側地区では、(04)で見た通り、2,000平方メートル以上の敷地をまとめれば高さの上限が事実上なくなるという、非常にシンプルな(そして緩い)ルールになっています。
この違いを生んだのは、下北沢が2006年(平成18年)、当時の熊本哲之区長のもとで決められた抑制的な地区計画であるのに対し、千歳烏山は2021年(令和3年)、保坂展人区長のもとで決められた規制緩和だったという、決めた時期と区長の違いです。
下北沢の高さ制限は「条件付きの段階制」
道路の種類・敷地規模・公開空地の質という複数の条件を掛け合わせて、高さの上限を細かく作り分けているのが下北沢のルールです。
千歳烏山は「2択」
対して千歳烏山駅前南側地区は、(04)で見た通り、2,000平方メートル以上の敷地をまとめれば高さの上限がなくなるという、単純な二択のルールです。下北沢のように道路条件や公開空地の質を細かく問う仕組みはありません。(烏山は雑な仕事というか高さの上限をいつまでも決めないでいたのです)
決めたのは、どの区長か
下北沢の抑制的なルールが決定されたのは2006年(平成18年)。当時の区長は熊本哲之氏(在任2003年(平成15年)~2011年(平成23年)で、保坂区長の前々代にあたります。
一方、千歳烏山の「2,000平方メートル以上なら無制限」というルールを決定したのは、(04)で見た通り2021年(令和3年)、保坂区長自身の判断です。これらの決定には議会は関与していません。議案にもなりません。簡単に言えば区長の専権事項ということになります。
同じ世田谷区内の駅前再開発でありながら、一方は細かい条件を積み重ねて高さを抑え、もう一方は敷地さえまとめれば上限なし、という正反対の結果になっているのは偶然でしょうか。
少なくとも、下北沢のような抑制的な制度設計は可能だったし、実際に世田谷区内で前例があったということは、はっきり指摘しておく必要があります。(保坂区長の時代にもやれたはず!)
なぜここまで高くなるのか
(06)で見た通り、駅前広場は買収から権利変換に切り替わり、再開発区域に含まれることになりました。ここで重要なのは、再開発区域全体と、実際に建物を建てる「敷地」は同じではない、という点です。
世田谷区が2025年(令和7年)6月14日・19日の説明会で示した資料によれば、区は「当地区(再開発地区)は、区域の約3分の1が駅前広場になることから、残りの約3分の2を敷地として機能を集約し」ていく必要がある、と説明しています。区域全体のうち約3分の1は駅前広場として使われ、建物を建てられる「敷地」は残りの約3分の2だけになるということです。
地権者の生活再建に必要な床面積は、もともと想定されていた規模のはずです。ところが、その床面積を、区域の3分の2しかない敷地に収めなければならなくなったため、区は基準の容積率500%に200%を上乗せした700%を維持する必要がある、と説明しています。
この200%の上乗せは、広場や歩道状空地の確保といった地域貢献を条件とする都市開発諸制度(高度利用地区)を活用したものです。
つまり、駅前広場を再開発区域に含めたことで、建物を建てられる土地そのものが狭くなり、そのしわ寄せを高い容積率と高さで埋め合わせる、という構図になっているのです
さらに世田谷区が2025年(令和7年)6月14日・19日の説明会で示した資料によれば、この地区の容積率は基準の500%に、広場や歩道状空地の確保、建物の壁面を敷地境界から4m後退させることなどを条件に200%が上乗せされ、合計700%とされています。広場を提供すること自体が、容積率を積み増す条件になっているのです。
下北沢のように敷地条件ごとに高さの上限を細かく決めていれば、この上乗せにも自然と歯止めがかかったはずですが、千歳烏山にはその歯止めがありません。
区は「生活再建」を理由に挙げるが
2026年(令和8年)6月の区議会本会議で、保坂区長はこの再開発について次のように答弁しています。
「この千歳烏山駅前広場南側地区における第一種市街地再開発事業は、京王線の連立事業を契機とした駅前広場を含む南側地区の地権者の方々が生活再建に向けて長年にわたり検討を重ねてこられた取組であり…本地区の計画内容は、駅前広場等の用地提供者の生活再建も含めて千歳烏山駅周辺を主要な地域生活拠点として発展させていくために必要なものと考えています」(2026年(令和8年)6月10日の本会議答弁)
また2026年(令和8年)6月11日の再質問に対しても、次のように述べています。
「この事業は、地権者の皆様の居住や、なりわいの継続など、生活再建が図られることに加えて…区といたしましても、地権者の皆様の生活再建は重要な課題であると認識しておりまして、将来にわたり、安心して居住やなりわいが継続できるよう…それぞれの方々が生活再建に向けた展望を描いていくことができるよう、必要な働きかけを行っていきたい」
「生活再建」は重要な視点です。しかし、それを実現する手段が「高さ無制限」でなければならない理由にはなりません。下北沢のような段階的な高さ制限の中でも、地権者の生活再建は十分に検討できたはずです。
問われるべきは「制度設計」
千歳烏山の超高層タワーマンション構想は、地権者の意思だけで自然に生まれたものではありません。
2021年(令和3年)に区自身が、下北沢とは対照的な「2,000平方メートル以上なら高さ無制限」という緩いルールを作ったこと、そして駅前広場の扱いが買収から権利変換に変わったことで容積率が積み増され、結果として高い建物を建てざるを得ない状況が生まれたこと──この二つが土台にあります。
地権者の生活再建を理由に挙げるなら、なぜ下北沢のような抑制的な制度を選ばなかったのか。保坂区政の都市計画行政のあり方こそが、問われるべきです。地元の議員として、下北沢にできた抑制的な制度設計が、千歳烏山にできない理由はないと考えています。
▼次回(09)は、この計画をめぐって説明会でどのようなやり取りと回答があったのかを見ていきます。
- 世田谷区「下北沢駅周辺地区地区計画」パンフレット(PDF): https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/sumai/003/002/002/d00123761_d/fil/pamphlet.pdf
- 熊本哲之(Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/熊本哲之

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