(10)区民からの質問への区の対応

 


(10)区民から出された216通の意見書――6年間、同じ問いに区は同じ答えしかしなかった

前回(09)では、区議会本会議で「一旦立ち止まるべきだ」という声が上がっていたことを取り上げました。今回は、区議会の外側――区民自身から寄せられた意見書や説明会での質疑応答の記録をたどり、区の姿勢を見ていきます。今回参照するのは、2020年(令和2年)7月から2026年(令和8年)2月までに区が作成した7つの質疑応答・意見書記録です。

【この記事でわかること】

  • 区民からの意見書は最終的に216通(212名)にのぼり、そのうち186通(183名)、実に約86%は「地区計画区域の外」に住む区民から出されたものであること
  • 「なぜ140m、なぜ容積率700%なのか」という区民の核心的な問いに対し、この数字が示された2025年(令和7年)以降、区の答えは一貫して具体的な数値的根拠を示していないこと
  • 説明会で「これ以上高い建物は建てない」とかつて説明されたはずだという指摘に、区が正面から答えていないこと
  • 区が賛成・反対の集計を求められても「賛否を問うものではございません」として最後まで公表しなかったこと
  • 地権者の3分の2の同意があれば法律上は反対する権利者がいても事業を進められる、という強制力の存在を区自身が認めていること

まず結論から言うと──2020年(令和2年)の素案説明会から2026年(令和8年)の意見書回答まで、区民が問い続けてきたことはほとんど変わっていません。「なぜここまで高くする必要があるのか」「なぜ以前の約束が守られないのか」「反対の声はどれだけあるのか」。これに対する区の答えも、実はほとんど変わっていません。「賑わいの創出」「生活再建」という抽象的な言葉で説明を繰り返し、具体的な数字を求められると「今後検討してまいります」「準備組合にお伝えします」で締めくくる。6年間、同じ問答が繰り返されてきたというのが、この記事で示したい事実です。

意見書216通、その9割近くが「区域の外」から

2026年(令和8年)1月22日から2月5日にかけて実施された都市計画原案の意見書募集では、最終的に次の数字が区の資料に記載されています。

区分 通数 人数
地区計画区域内の土地所有者等 30通 29名
地区計画区域外にお住まいの方 186通 183名
合計 216通 212名

区域外から寄せられた意見の中には、「今回の意見書提出の機会につきましては、賛否を問うものではございません」という区の回答に対し、はっきりと「居住者の賛成、反対の数値を示して欲しい」と求めるものもありました。しかし区は、この求めに応じませんでした。一方で別の意見への回答では、「素案説明会や情報交換会で頂いた多くの反対意見を含むご意見への対応につきましては……総合的に判断しております」と述べており、反対意見が多いこと自体は区も認めています。反対が多いことは認めながら、その数を正式には数えて公表しない。ここに、この計画をめぐる区の基本姿勢が表れているように思います。

「なぜ140m、なぜ容積率700%なのか」――数字が示されてから、変わらない問いと、変わらない答え

高さ140m・容積率700%という具体的な数字が区民の前で語られるようになったのは、確認できた記録の中では少なくとも2025年(令和7年)1月の報告会からです。それ以降、区民は説明会のたびに、ほぼ同じ疑問をぶつけてきました。

「140m、34階は高すぎると思います。20階くらいまでが適当と考えます」(2025年〔令和7年〕6月14日・19日説明会)
「34階の高層が必要な理由がどこにあるのか」(2025年〔令和7年〕9月3日・6日説明会)
「高さの最高限度を140mとする根拠が示されていない」(2026年〔令和8年〕1月22日〜2月5日意見書)

これに対する区(および再開発準備組合)の回答は、時期を通じてほぼ同じ文言の繰り返しです。要約すると、「区域の約3分の1が駅前広場になるため、残りの約3分の2に敷地機能を集約する必要があり、地権者の生活再建と賑わいの維持のため、都市開発諸制度(高度利用地区)を活用して容積率700%とし、結果として高さ140mとなった」というものです。この「駅前広場が敷地の3分の1を占めるため、残りの敷地で容積率を積み増す」という仕組み自体は(06)(08)で検証済みの事実であり、区の説明の中でも繰り返し使われています。2025年(令和7年)9月の説明会では、区はさらに踏み込んで次のように述べています。

「駅前広場によって約3分の1の敷地を拠出することや敷地内に歩行者空間や広場を設けることなどの公共貢献をすることにより利用できなくなる床面積分を、計画敷地内で補う必要があるため、高度利用地区という制度を活用することとしています」

つまり区自身が、駅前広場の整備によって失われる床面積を、残りの敷地の高層化で埋め合わせるという構図を認めているのです。しかし「なぜその埋め合わせの結果が140mでなければならないのか」「20階や45m(かつての高さ制限)ではなぜ足りないのか」という、区民が本当に知りたい定量的な検証(他の高さ案との比較、必要な床面積の積算根拠など)は、この数字が示された2025年(令和7年)以降、2026年(令和8年)に至るまで、一度も示されていません。

「もう高い建物は建てない」と言われたはずでは

複数の説明会・意見書で、繰り返し指摘されている論点があります。それは、以前の高層マンション(通称エルザ世田谷)建設の際に、区が「これを最後に、これ以上高い建物は建てない」という趣旨の説明をしていたはずだ、という指摘です。

「エルザ世田谷の建築時には反対運動があった。当時、この建物を最後に烏山では高い建物は建たないと聞いていた。……なぜ、このような計画になったのか」
「北烏山の高層マンション建設の時、区はこれ以上高い建物は建てないと約束をしたが、なぜ守られないのか」

この指摘に対する区の回答は、地区計画(2021年〔令和3年〕策定)で「敷地面積2,000平方メートル未満の場合は高さ45mまで」という制限を設けたが「敷地面積が2,000平方メートル以上の場合は制限を設けていない」という、現行ルールの説明にとどまっています。過去の約束があったのかどうか、あったとすればそれがなぜ、いつ、誰の判断で覆されたのか――この核心部分について、区が正面から答えた記録は見当たりませんでした。

「90%が反対」という声を、区はどう扱ったか

2025年(令和7年)9月の説明会では、複数の区民から「前回(6月の)説明会でも90%以上が反対の意見だった」という指摘が相次ぎました。これに対する区の回答は次のようなものでした。

「前回の説明会では、質疑した方の90%程度が反対であったとの意見がありましたが、参加者の9割が反対ということではありません」

「質疑した人のうち9割が反対」という区民の指摘を、「参加者全体の9割ではない」と言い換えることで、数字の重みを相対化する回答です。強い反対の存在そのものを否定しているわけではありませんが、実際にどれだけの区民が反対しているのかという最も基本的な問いに対し、区が正式な集計を示したことは、少なくとも今回確認した7つの資料の中では一度もありませんでした。

同じ2025年(令和7年)11月の街づくり情報交換会では、対話を求める1,308筆の署名(陳情)についても質問が出ています。区の回答は「対話の場を設ける必要性に応えるため、街づくり情報交換会を開催している」というもので、1,308筆という規模そのものへの評価には触れていません。

法律的には強制できる、と区自身が認めている

市街地再開発事業は、都市再開発法の枠組み上、地権者の3分の2以上の同意があれば、残りの地権者が反対していても事業を進めることができる制度です。2025年(令和7年)9月の説明会で、区民から「反対の方が今も3割いる。強制退去などの措置をとられるのか」と問われた際、区は次のように答えています。

「法律的には反対される方がいても事業は進められる仕組みになっていますが、基本的には話し合いを行い、納得いただけるように対応するよう指導していきます」

別の場面では、「3分の2だったら法律的には問題ないということで、行政執行ということも考えているんでしょうか。すごく理不尽だと思っております」という切実な訴えに対しても、区は同様に「法律的には強制力をもって進めることができる仕組みではあります」と述べた上で、「丁寧に説明することでご理解をいただけるように」という言葉で締めくくっています。強制力の存在自体は否定せず、それを「丁寧な説明」という言葉で包む――これが、この計画に対する区の基本姿勢だと感じています。

なお、複数の意見書では、事業に関わる民間の担当者から「ここを出て行ってください」と言われたと訴える地権者がいたことも記録されています。この重大な訴えについて、区・準備組合側は「立退きを迫る趣旨の発言をすることはありません」という組織としての一般的な否定を述べるにとどまり、個別の事実確認を行った形跡は資料上見当たりませんでした。

なぜ今、決めなければならないのか

2026年(令和8年)の意見書では、次のような指摘もありました。

「国土交通省が再開発の補助要件を見直し、再開発計画が2027年(令和9年)3月までに認可されないと補助を受けられなくなるため、急いでいるのではないか」

これに対し区は、2025年(令和7年)3月に国土交通省が市街地再開発事業等関連要綱を改正した事実は認めた上で、「再開発準備組合が検討を重ねてきた準備組合案を真摯に受け止め……都市計画変更の手続きを進めております」と回答しています。「駆け込みではない」という直接の否定はなく、スケジュールが早まっている背景に国の補助要件があるのではないかという疑問には、実質的に答えていません。

他の自治体はすでに見直している

意見書の中では、他の自治体の動きを踏まえた指摘も複数寄せられています。「三鷹市や神戸市のように、世田谷区も地権者が再検討できるように見習ってほしい」「高層マンションの規制条例を作らないか」といった声です。区の回答は、神戸市などの規制条例の存在を認めつつ、「これらの事例は、それぞれの自治体固有の都市構造や課題を背景に検討され、自治体ごとに導入されたもの」として、世田谷区として同様の規制を導入する考えがないことを婉曲に示しています。前回(09)で紹介したNHKの報道でも、他地域で大規模再開発の見直しが相次いでいることが取り上げられていましたが、区がこうした流れを踏まえて計画そのものを再検証した形跡は、今回確認した資料の中には見当たりませんでした。

6年間にわたってほぼ同じ問いが繰り返され、区の答えもほぼ同じ言葉で繰り返されてきたという事実そのものが、区民の不信感を最も強めている原因ではないかと感じています。

【参考】

本記事は、世田谷区が作成した以下7つの質疑応答・意見書記録(公開資料)にもとづいています。

  • 2020年(令和2年)7月「千歳烏山駅周辺地区 地区計画・地区街づくり計画」(素案)に対するご意見等
  • 2025年(令和7年)1月23日・26日 千歳烏山駅前広場南側地区の街づくりに関する報告会 質疑応答等
  • 2025年(令和7年)6月14日・19日 都市計画(準備組合案)説明会 質疑応答等(世田谷区資料
  • 2025年(令和7年)9月3日・6日 都市計画(素案)説明会 質疑応答等
  • 2025年(令和7年)11月15日 第1回街づくり情報交換会 付箋意見への回答
  • 2026年(令和8年)1月25日 都市計画(原案)説明会における質疑応答要旨
  • 2026年(令和8年)1月22日〜2月5日 都市計画原案「意見書の要旨」(区域内30通・区域外186通、計216通)


▼次回は、都市計画審議会でこの計画が実際にどう扱われるのか、今後の焦点を整理します。





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